みよ子の赤いチューリップ10
「みよ子、夕飯をいっしょにしようか?」
みよ子の顔をのぞきこむように、心配そうにたずねるのです。横にふりたい頭をこくっとたてに小さく一回だけふりました。
シェリーは東中野でもおいしいと評判の洋食屋さんでしたが、みよ子は今でも何を食べたのか思い出せません。
新しい運動靴を本当はほしくてもいらないといい、バレエや踊りの学校に行きたかったけれどお母さんと同じ美容師の学校に進みました。本心は言わなかったけれど、みよ子はうそをついているとは思いませんでした。あのときの「知らない・・・」にくらべたら。
あんなに楽しくあのチューリップと歌いあい、踊ったあとで、みよ子は「知らない」といったのです。あのチューリップはあれからどうなったのか。チューリップにもヨシミさんにも申し訳なさすぎて、みよ子はどうしても思い出せません。あのまま朽ちてしまったのか。後悔の気持ちは三十年たってもあの日のままでした。

