ありがとうがききたくて8
ジップにはちんぷんかんぷんでしたが、それでも、「ありがとうといってもらえないありがとうが一番尊い」ということばだけはわすれられませんでした。
それからまもなく、ジップは鉄道員になりました。
今は年老いて、小さな駅を守ります。
「ありがとうをいわれないありがとう」をさがして生きてきました。
「ありがとう」といわれたら「負け」というゲームです。だから、こっそりがモットー。小さいとき、こっそりいたずらしていたのと同じですから、またふりだしにもどったみたいです。
午前に一本、午後に一本だけ列車が停車するだけの駅でしたから、駅の仕事のほかは、こっそりのありがとうをするだけです。
酔っ払いやならず者がしかけてくる、腹にすえかねえるけんかのたねも、こっそりのありがとうをするのに夢中で、けんかの花がひらくことはありませんでした。

